トレイン
リカの顔は既にいつもの表情に戻っていた。逆に動揺しているのは僕の方だ。『マコト』という文字が頭にへばりついて離れない。
「心配しなくても大丈夫だよ」
リカはそういって、僕にからかうような笑顔を見せる。
「別に心配なんてしてないよ」
強がりだった。心配で仕方なかった。だからって、じゃあメール見せてみろよ、なんてことは口が裂けても言えなかった。言いたくなかった。
嫉妬や不安で、自分の気持ちを相手に強要することを、僕は今まで一度もしたことがない。
なんだか自分の価値を下げてしまうような気がして嫌だった。
それが、僕が唯一持っている安っぽいプライドだった。
そんな安っぽいプライドのせいかもしれない。僕はたまにリカから言われることがあった。“ユウトの考えてることが分からない"と。
今考えると、僕は拒絶されるのが怖かっただけなのかもしれない。傷つくくらいなら、自分の気持ちを押さえつけてでもそばにいたい。そんな臆病な気持ちを、優しさや、プライドという言葉に置き換えて自分を守っていたのかもしれない。