トレイン


その彫刻は噴水の真ん中にあった。真っ白く巨大な人間の顔が横倒しになっており、髪の毛に見立てた青々とした葉は、アフロヘアーのように彫刻の頭を包んでいる。二つの大きな眼からは涙が止めどなく流れ出し、それが噴水の水になっていた。

周りにいた小学生のグループが、噴水の周りを囲んでケラケラと笑っている。確かに滑稽な彫刻だった。僕もそれを見た瞬間は、プッと吹き出してしまった。

だけど、永遠に涙を流し続ける見開かれた彫刻の眼を見ていると、僕はなんだかその眼が怖くなってきた。
瞳の彫られていない真っ白な眼は、僕の全てを見透かしているような気がした。僕の中に潜む不安や、恐怖が、あの巨大な眼から、涙となって流れ出ている気がした。

僕は釘付けになった彫刻の眼から視線を切った。後退りするように噴水を離れ、足早にリカの所へ戻る。だが、僕の足はベンチに座るリカの姿が見えた途端、ピタッと止まった。

リカの右手には携帯が握られていた。静かな表情で携帯の画面に視線を落とし、親指は忙しなくカチカチとキーを打っている。僕の脳裏に反射的に“マコト"という名前が浮かんだ。



< 24 / 25 >

この作品をシェア

pagetop