ダメな僕のレクイエム
次に目覚めた時のは夕方の5時を少し回っていた。

ちかは立ち上がるとバスルームに向かいシャワーを浴びた。

頭が少しぼーっとしている。

熱いシャワーで無理矢理気持ちを切り替えた。

バスルームから出ると服を選び、鏡の前に座ってメイクを始めた。


服を着て、髪を整え、ドレッサーの香水に手を伸ばす。

スプレー式の香水をふった。


脳裏に自分の声が蘇ってきた



「センセの匂い好き!何をつけてるの?」

「え?これか?」

「うん!あまーい匂い!」




その日神谷が教えてくれた香水をちかは今でもつけていた。


漂うその香りを胸いっぱいに吸い込むと、涙が溢れそうになる…


ちかはドレッサーに座ったまま 声を上げて泣いた…

変わり果てた神谷に再会してから、張り詰めていた何かが一気に崩れた瞬間だった…


泣きたかったんだ…


そう思った。



溢れる涙を堪えようとせず、長い時間泣いた…





支度を整えて、カバンを持った時に携帯が鳴った。

森田からだった。

「下にいるよ」

彼はそう言って電話を切った。

ちかはローヒールのパンプスをはくと玄関をでてエレベーターに乗りマンションのエントランスに出た。

マンションの自動ドアのガラスの向こうに森田のシルバーの車が見えた。

森田はいつも約束の時間より先に着いて車を降りて待っていてくれる。

その優しさがちかには辛かった。

マンションを出てエントランスの階段を下りると、森田がちかに気づき笑いかけてきた。

ちかは少し微笑んで手を振った。


「待った?」

「大丈夫だよ」

ちかの問いに森田は答えながら助手席のドアを開けてくれた。


ドアを閉め車の前を回って運転席に乗り込むと

「目 どうかした?」

森田が聞いてきた。

さっき泣いたちかの目は少し腫れていた。

「あ…ぅうん。夜勤明けの寝起きだからかな?変?腫れてる?」

「いや、可愛いよ。大丈夫。」


森田が笑いながら答え、シートベルトをすると車を走らせた。

神谷の事を森田に話す気にはなれなかった…
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