銀杏ララバイ

「お姉ちゃん、どこへ行くの。」



かおるがそっと玄関を通り抜けようとすると、

鳶人と遊んでいた孝史が、
目ざとく声を掛けて来た。

今までは何でも話し合ってきた2人だったが、

ここに来て孝史は鳶人に心を奪われている。

今になれば、
かおるにとってもそれは喜ばしい事だ。


それに、父の借金問題では孝史はまだ子供過ぎる。

父の失踪が借金がらみと言う事は話したが、

今の気持ちを相談する気にはなれなかった。

相談しても、
何も理解すら出来ないかも知れない。

そんな事は16歳の自分でも、
どうしてよいのか分からない事だった。

だから余計な心配をさせるより、

こうして鳶人と遊んでいる方が孝史らしい、
と思われていたかおるだ。


少なくとも自分は、
借金の仕組みなどは分からないが、

一応母から話を聞いた。

姉としての自覚もある。



「ちょっと観光。
上へ行くと弁財天と言う芸事の弁天様が祀られているらしいから、
ちょっと見て来る。

孝史は鳶人と遊んでいなさい。
その子もサッカー少年になるかもよ。

楽しそうな顔をしている。」



孝史の側に立っている鳶人に微笑みながら、

かおるは軽い調子で話している。



「うん。こいつ初めてにしては筋がいい。」



と、孝史は鳶人にボールを転がしながら、

満足そうな顔をしてかおるを見送った。


確かに孝史は弁天様を見るよりは、

こうして鳶人と遊んでいる方が面白い、

とその顔は言っていた。

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