銀杏ララバイ

かおるは、あの土産物屋が立ち並んでいる坂道を登り、

弁財天が祀られていると言う江の島神社に向かった。


近江の竹生島、安芸の厳島と並んで日本三弁天と言われている。

琵琶を抱えている、その豊麗な裸像の妙音天女は、

気高く美しい、と、それまでほとんど関心の無かったかおるも、

歩きながら他の観光客の言葉を聞き、そう思った。


しかしこんな所でどうして刀を見つけることが出来るのだ。

こんなに大勢の人がいる中で、
中に入って、後ろに回れば何か苦情を言われそうだ。

そう、弁財天を信じて、
わざわざここまで来てお参りしている人に怒鳴られそうだ。

それに見た限り何も無い。

それだけで、かおるの気持ちは戸惑っている。


そうか、信じて、念じて呼べば現れる様な事を言っていた。

それでも、こんなに人がいる中で、
いきなり刀が現われれば大騒ぎになる。

刀を抜かなければならないのだから… 

いや、今の日本では、刀を持つだけで警察に捕まってしまう。

どう考えても今は無理だ。
夜なら観光客も来ないだろう。

しかし、夜一人でこんな所に来るのは不気味な気がする。

やはり孝史に話して… 
たとえ11歳でも一応は男だ。
いるだけで心強い。


そう結論付けたかおるは、
何食わぬ顔をして皆のいる宿に戻った。

これからは家と呼ぶべきだろうか。


鳶の銀杏丸はそこにいた。

しかし、かおるを見ても特別な反応は無い。

アレは夢だったのか。

それとも今は鳶の中に実鳶の魂が入っていないのか。


こんな事は誰にも聞く事は出来ないし、
話す事もないが、

それでもかおるはまじまじと、

玄関の銀杏の木に止まって、

遊んでいる二人を見ている
鳶の銀杏丸を観察している。

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