渇望-gentle heart-
室内には、雨音の帳が下りていた。


俺達は生まれたままの姿で抱き合い、その胸に顔をうずめると、百合の香りにひどく安堵している自分がいる。


映画はすでに終焉を迎えてた。


けれどその音楽があまりにも間抜けで、だから折角の行為の余韻には浸れなくて、まるでどこか夢の中での出来事にさえ感じてしまう。



「どうしたの?」


百合は不安そうに聞いてくる。



「んー、幸せすぎて怖いっていう百合の気持ち、何かわかる気がしてさ。」


愛しさばかりが留まることなく溢れ出して、その大きさに俺自身が驚いてるってゆーかさ、笑うだろ?


だからホントはすごく不安だし、今、瑠衣さんのことをどう思ってるのかって聞きたくて、でも聞けなくて。


恥ずかしいけど、百合の過去に嫉妬してる。


全部ひっくるめて好きだと言ったのは俺自身なのに、人は欲深くて嫌になるよ。


何にも押し付けたいなんて思わないのに、気を抜けば、ずっとここにいて、と言ってしまいそうになる。



「でも一生大事にしてくれるんでしょ?」


そんな言葉に目を丸くして、次には笑ってしまった。


そうだね、ずっとこうやってたいね。


百合をうつ伏せにし、肩甲骨の辺りに指先を這わせる。


この世の醜いものによって削ぎ落とされた天使の羽が、ここにあった証のよう。



「何?」


「背中、綺麗だと思ってさ。」


馬鹿じゃん、と言われ、また笑った。


笑い合っているだけで幸せだと思えるなんて、これ以上の愛はないのかもしれない。


俺、こんな日々が永遠に続くことを願っていたんだ。

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