渇望-gentle heart-
気付けば俺は、ゆうくんの家を飛び出していた。


すぐに携帯を取り出し、百合の名前を呼び出してから、通話ボタンに指を乗せる。


街は人で溢れていた。



『どうしたの?』


電話口から聞こえた声に、いつも俺がどれだけ安堵しているかなんて、お前は知らないだろうけどさ。



『不安だったんだ?』


そりゃそうだよ。


だって俺、今も変わらずお前が好きだから。



『心配しなくても、ジュンと生きてる地元があたしの居場所だから。
きっともう、思い出して泣くことはないよ。』


淀んだ空気と、濁った瞳を持つ人々。


ここはもう、俺達の居場所なんかじゃない。



「なぁ、今どこにいる?
すぐ行くよ、俺はお前のこと待たせたりしないから。」


ありがとう、と百合は笑った。


場所を聞いて電話を切ると、俺は人の波を掻き分け、足を踏み出す。


あの頃から、俺の目指す場所にはいつも百合がいて、だから迷ったり見失ったりなんてしない。


今すぐ会いたいんだ。


息を切らして向かった場所に、彼女はいた。



「百合!」


呼び掛けに振り向いた百合は、いつもと同じように笑っていた。


そこに瑠衣さんの姿はないけれど、でも、晴れ晴れとしている彼女の顔を見たとき、やっぱり込み上げるのは愛しさだった。



「遅いよ、ジュン!」

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