渇望-gentle heart-
別にあたしだって小さな頃からこんなにねじ曲がった性格だったわけじゃなく、そりゃ人並に可愛いお嫁さんになりたいなんてことも思っていた。


普通の家庭で育った、普通の子。


それ以外に形容すべき言葉が見つからないような、平凡そのものの人生だったのに。


なのに綻んだのは、いつだったか。



「香織さぁ、ユキちゃんが原田くんのこと好きだって知ってるのに、どうして仲良く喋ってるの?」


よくある話だ。


友達の好きな男の子と喋っていたから、簡単に言えば、その日からハブられた。


初めは何となく邪険な扱いを受けるだけだったが、でも日を追うごとにそれはエスカレートし、最終的にいじめへと形を変える。


暴力の方がずっとマシだった。


無言の瞳も、冷たい視線も、まるで絡まる蛇のようにあたしの心を蝕んでいく。


ただ、愛されたかったの。


何の取り柄もなくて、見た目だって普通で、だからみんなが嫌い。


自分に自信がないくせに、あたしを見てと願いながら、相反する感情は心の中で醜く混ざる。


だから一番簡単で、そして確かなものは、セックスだった。


求められることでしか自分の形を保てなくて、それでしか生きられない、愚かなあたし。


綺麗になれば男が寄って来て、ブランド物で身を包めば、人はあたしを羨んだ。


けれど、何ひとつ満たされない。


だからまた、求めて、求めて、求めるのに、なのにあたしの心は渇いていく。





そうだ。


あたしはあの頃、
誰かに助けてほしかったんだ。






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