青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「なあケイ、いいのかよ」
黙って利二の背を見送っていたら、モトに心配された。あのモトから普通に心配された。
知るかよ、俺に挨拶なしだったし……とか思ってみてもさ、あーもう、何だよコンニャロ!
俺だってそりゃ気まずいし決まり悪いって!
でも謝る気にはなれない。
悩んでいる間にも利二の背は遠ざかって行く。モトが焦れたように俺を呼んできた。
分かっているよ、言っておかないとイケねぇことがあるってことぐらい。俺だって言っておきたいことがあるし。
遠ざかる利二と、焦れたモトの声と、尻込みする俺の気持ち。
どうしようか考えて考えて考えてかんがえて、考えることが面倒になった。
響子さんの言う『ウジウジする前に行動をしろ』ってのは、まさにこの時のことを指すんじゃないかと思う。
俺は痛む身体に鞭を売って利二の後を追った。
ゆっくり歩く利二に対して俺、全力疾走だぜ?
フルボッコにされた上に大喧嘩して暴れまくったっつーのに力一杯走る、俺ってタフだよな。ほんと。
直ぐに息切れしてくるけど、そこは根性だ根性。
痛みとか辛さとか苦しさとか、そんなものは全部無視して俺は利二の前に回って足を止めた。
「田山?」
利二の驚く声が鼓膜を振動する。
俺が追い駆けて来ると思わなかったんだろうな。
俺だってお前を追い駆ける気、十秒前までは無かったよ。
ちょっとたんま。
喋りたいけど呼吸が整わねぇんだよ。
根性で走れても、あがった息は根性じゃどうしようもねぇんだって。何度も息を吸って吐いて呼吸と気持ちを整える。
よし、少し呼吸が楽になってきた。
早鐘のように高鳴る鼓動を感じながら俺は、ゆっくり息を吐いて顔を上げる。目を丸くしている利二と向かい合って、俺は息と一緒に言葉を吐き出した。
「あの時、お前をこれ巻き込まないようっ、日賀野の舎弟になろうとした。それをお前は止めた。日賀野のこと恐いくせにさ、ビビッてたくせにさ、後先考えないで俺の決断を止めやがった。お前だって十分カッコ付けだ。人のこと言えないってのがひとつ。そしてもうひとつ、お前に言いたい」
言い方は荒いけど俺、利二と喧嘩したいわけじゃない。
ただ一つ言っておきたいんだ。日賀野の誘いに乗ろうとした俺を体張って止めてくれた利二のおかげで、最悪の間違いを犯さなかった。
今以上に悔いていただろう未来を迎えることなかった。それは利二のおかげだ。
だからヒトコト言っておきたいんだ。
一呼吸置いて、俺は利二から目を逸らした。
「俺が日賀野の誘いを断ることができたのは、お前が止めてくれたからだ。あそこで止めてくれなかったら、俺はきっと断れなかった。絶対に」
「……田山」
「お前は間違ってねぇ。間違ったことなんかしてねぇから」
ヒシヒシ利二の視線は感じるけど、はっきり言って今、利二を直視できない。
他人と喧嘩なんて滅多にしないから、喧嘩後の接し方とか対処方法もよく分からないし。普段、面と向かって友達にこんなこと言わないし。