青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「借りなんて俺、そんな大それたモン作らした覚えないよ。あれは俺が勝手にヨウを追ったことだし……それにお前が仲間の為に突っ走っていた。
だから俺、ヨウに手を貸したくなった。
舎弟っつーのもあったけど、こんな俺でもお前の足くらいにならなれるんじゃないかと、あの時思ったんだ」
「ホントだからな」目を丸くして俺を見てくるヨウに笑ってみせた。
喧嘩経験も皆無で、腕っ節もないけど、ヨウの足くらいにならなれるんじゃないかって思ったんだ。
だから借りを作ったとかそういう大それたモノを押し付ける気もない。不良に借りを作るってもの恐いしな。
「マジに今回のことを責めるつもりなんてないよ。寧ろちょっと申し訳ない気分。恥ずかしい姿バッカ見せたから」
「ンなことねぇよ」
「そうだって。取り乱したり、弱音吐いたり、挙句の果てには喧嘩止めてもらったり……ヨウ、俺がモトを舎弟にした方がイイって言っているのは俺が弱いせいだからなんだ。ヨウのせいじゃない」
並んで歩くヨウに言って、俺は自分を指差した。
「見ろよ、このフルボッコ後の情けない姿。お前の舎弟にしちゃ弱いだろ?」
「……ンな、ことー……ねぇよ?」
いや、目を逸らせてフォローされると虚しくなるだけだから。
そこは素直に『弱い』って言って欲しいんだけど。
気を取り直して、俺は話を続ける。
「一件で俺はどうすれば良いのか。ヨウはどうすれば良いのか。
そうだな、例え話をしてみようか。俺とヨウの舎兄弟を白紙に戻したら? っていう、今直ぐにでもありえそうな例え話をさ」
「……テメェはどう考えているんだ? ケイ」
「俺? 俺はーそうだな。白紙に戻しても、今までどおりだと思っているよ」
だってそうだろ? 俺達って同じ学校に通っているし、こうやって関わり持っちまった。簡単に繋がりが切れるかっつったらそうでもない。
舎兄弟ってのが消えるだけで、俺達は今までどおりに接しているんだぜ。
きっと俺は表じゃ笑って、裏じゃ不良に嘆いている。
それにヨウは気付かないで笑っている。チャリに乗せろとか言って、俺の後ろに乗ってくる。
な、大して変わらないだろ?
「もともと俺達って舎兄弟って雰囲気でもないしな。俺がキンパにすりゃちょっとは見えるかもしれねぇけどさ。所詮は見掛け倒し。喧嘩できる方じゃないし、不良でもない。今日みたいにお前の手を煩わせることだってある」
認めるの悔しいけど、ガキの頃から喧嘩を避けてきた俺は普通に弱い。日賀野が不良の中でも飛び切り強いから、こんな惨めな負け方したって分かっている。
だったら日賀野の以外の不良に勝てるのか。こんな負け方しないのか。
そう問われたら俺は「ノー」って答える。
ずっとずっと喧嘩とか諍いを避けてきたんだぜ? 喧嘩慣れしている不良に勝てる筈ないじゃないか。
今のヨウの話を聞いて、舎弟はモトの方が断然向いていると思った。
モトを舎弟にした方が良いと思った。
どーせヨウが舎弟を作るなら、もっと強い奴がいいじゃないか。
どーせならもっと喧嘩できる奴がいいじゃないか。
少なくともモトなら、こんな負け方しない。きっと、そうきっと。
成り行きでなった肩書きだけの舎兄弟だ。
俺達が舎兄弟であろうがなかろうが、俺とヨウの仲に影響があると思えない。
大して変わらないなら、俺との舎弟を白紙にしてヨウはもっと別の舎弟を作るべきなんだって思うじゃん。