青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
かなり面倒なことになっているんだな。ヨウ達と日賀野達の仲って。
そういう経緯なら尚更、日賀野が俺を狙ってきた理由も分かる気がする。舎弟の俺を狙ってくる理由がさ。
黙って聞いていた俺は頬を掻きながら、自分なりに話を整理していたけど、小さく口を開いて俺は聞いた。
「じゃあ、先日のハジメって奴がヤラれていた喧嘩騒動は日賀野達のグループが関わっているのか?」
「ああ……あいつはあんま喧嘩デキねぇからな。狙いやすかったんだろ」
「なんで、狙ったんだ?」
「俺達グループを潰してぇんだろうな。正直、向こうの狙いなんざ俺もよく読めねぇよ」
苦虫を噛み潰したような顔を作るヨウの気持ちは分からないけど、多分悔しいんだと思う。
俺は前に視線を向けた。
伸びている俺達の影が視界に入ってしょうがない。
暫く俺達の間に沈黙が流れたけど、不意をつくように俺は口を開いた。
「なあヨウ、モトを舎弟にした方が良いんじゃないか? あいつなら俺より、喧嘩できるだろ」
率直な俺の意見にヨウは返事を返してこない。俺は前を見つめながら話を続けた。
「喧嘩できるとできねぇじゃ大きい違いだろ? 仮にモトが舎弟だったら、お前の負担も減ると思うぜ。俺じゃお荷物だろ」
「別に素直に言っていいんだぜ。今日の騒動は俺のせいだって。俺が舎弟にしたからこんな目に遭ったって」
「へ? なんで」
「あ? テメェこそなんでだよ」
俺とヨウは間の抜けた声を上げあった。ヨウは俺につられて声を上げたんだと思うけど。
だってまさかヨウがそんなこと言うと思わなかったしさ。
驚く俺にヨウが決まり悪そうに頭を掻いて目を逸らした。
「そういう意味で言ったんじゃねえのか?」
「ヨウさ、俺の話聞いていたか? 俺じゃ弱いしお荷物になるからモトにしたら、そう言ってるんだけど」
「ウッセェな。そういう意味で捉えちまうだろ、フツー」
捉えないだろ、フツー……ああ、そうか。
俺は数秒間を置いてヨウの気持ちを察した。響子さんの言うとおり、ヨウは責任を感じているんだ。自分のせいでこうなったって。
そういえば自分のこと『ダサイ』って言っていたあの台詞、アレももしかして責任を感じて言っていたのかもしれない。
けど俺だってお前に背を向けようとしたんだぜ。
日賀野の脅しに屈しようとしたんだぜ。
「俺にヨウを責める権利なんてないんけどな。それどころか責められる立場だよ」
「それこそ何でだよ」
「だって俺、一度は日賀野の誘いに乗ろうとしたんだぜ?」
「けど結局、乗ってないだろうが」
「ならヨウだって、俺がピンチだって聞いて来てくれただろ」
「間に合わなかっただろ」
顔を顰めるヨウが荒々しく言葉を続ける。
「俺が来てもケイはヤラれた後。意味ねぇんだよ」
「ヨウが来てくれなかったら、あそこでずっとオネンネしていたと思うけど」
「ハジメがピンチの時、テメェのおかげで間に合ったんだぞ。なのにテメェの時は間に合わなかった。ンなの釣り合わねぇだろ。俺、テメェに借り作りっぱなしじゃねえか」
ヨウの言葉を聞いて、俺は盛大に吹き出してしまった。
突然大笑いする俺にヨウは恥ずかしそうに「ンだよ」と低い声を出してくるけど、笑いがどうしても漏れる。
「ケイ……テメ、笑い過ぎだ」
「悪い悪い。ヨウって律儀だよな。はじめて会った時からそうだ。あの時も、不本意だけど俺に助けられたからってガムくれたよな」
「チッ、そういう性分なんだよ」
不機嫌そうにヨウが反論してくる。これ以上笑うと機嫌を損ねるよな。
どうにか笑いを殺して、俺は茜色に染まった空を仰いだ。