青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
◇ ◇ ◇
今から昼休みだ。
ヨウとワタルさんはコンビニで何か買ってくると言い(俺の学校の近くにはコンビニがある。
売店よりも品揃えがイイ為に2人はコンビニに行くそうだ)、俺は弁当を持参しているため、教室に戻ることになった。
ヨウが昼飯代を貸してくれるって言ったけど、折角弁当を持って来ているし勿体無いからと丁重にお断りした。
本音を言えば、早く教室に戻りたかったんだけどさ。
ヨウ、ワタルさんと別れた俺は、やっと解放されたと重い足を引き摺って教室に戻っ。
だって恐かったんだよ。凄く恐ろしかったんだよ。ヨウとワタルさん。
特にワタルさん。
なんか、ところどころキャラが違うし、キレ気味というか喧嘩の話になると一人称が『俺様』になるんだよ。
ある意味ヨウよりも恐いかもしれない。
というか、改めて不良さまは恐いと実感。
色んな意味でヤツれてしまった俺は教室に入った瞬間、安堵してその場に崩れそうになった。
俺が入ってくるのにクラスメートがどよめきの声を上げる中、俺はどうにか自分の席に着くと机に倒れるように顔を伏せた。
つ、疲れた……ひとりでよく頑張ったよ、俺。
孤独にたたか……いや、孤独によく堪えた、俺。
あんな恐い不良二人相手に、よく泣かなかったな、俺。
俺自身を心の中で褒め倒していると、机が大きく振動した。
ヨロヨロと顔を上げれば、利二が地味に俺の目の前に立っていた。
何十年ぶりに利二の顔を見たような気がする。
実際に言えば、朝ぶりなんだけどさ。
利二の後ろには光喜と透が立っているような……嗚呼、もうダメ。俺、疲れ果てた。燃え尽きた。真っ白な灰になった。
軽く利二達に笑って、おやすみなさいモードに入ろうとしたら光喜が俺の肩を大きく掴んできた。
「田山生きているか! 傷は浅いぞー!」
「隊長殿。自分はもう駄目であります」
「死ぬなー! 何があったか隊長の俺に話せ! 敵は取れないが、同情してやる!」
さすが光喜。
敵が取れないってとこが、正直者だよ。お前。
利二が呆れ顔で光喜に「冗談言っている場合じゃないだろ」ちツッコんでいた。
光喜はハッと我に返って、真剣な眼で俺を見据えてくる。
「田山、何があったんだ。今まで何していたんだ?」
「俺? 今、お前と話している」
「ちっげ! 今までの話だよ! 荒川庸一と一緒だったんだろ? 大丈夫だったのか?」
「だいじょうぶ、ダイジョウブ、大丈夫、あははは、勿論……大丈夫なもんか! 俺、マジ死ぬかと思ったんだぞ! ひとり孤独に恐い思いしたんだぞ!
クッソー、どうして不良さまは母音に濁点を付けるんだ、恐いっつーんだ! なんで豆乳なんだ! 確かにカラダにはいいけど、豆乳って俺、あんま好きじゃないんだ!」
「落ち着け。田山。言っている意味が分からん」
利二の言葉も、俺の耳には入らない。
だって真面目に恐かったんだ。
ヨウが、ワタルさんが、特にワタルさんが! ヨウよりもワタルさんが恐かった! 下唇のピアスが痛々しかった!
一頻り喚いた俺は、大きく溜息をついた。
そりゃタメだから、話してみればフツーだけど、やっぱ恐いんだよな。
髪は染めているし、母音に濁点つけるし、ピアス痛そうだし。
それでもって舎弟確定みたいだし。
冗談じゃなかったんだ、舎弟の話。