青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
利二達は、各自椅子と弁当を持参して俺の周りに集まった。
こういう場合、何があったか話せってことなんだろうなぁ。
うん、お前等、イイ奴等だよ。友情を感じるよ。
うん、薄情者だけどさ。
弁当を取り出した俺は、食欲が湧かないまま無理やり弁当を胃に押し込み、ポツポツ昨日のことを三人に話すことにした。
俺がヨウの舎弟になったことを話せば、三人が三人とも驚愕な顔を作ってきた。
「うっそだろ。お前、荒川庸一のッ、舎弟になったのかよ」
光喜が素っ頓狂な声を上げる。透は少し顔を顰めて言った。
「冗談じゃないの?」
「だったら嬉しいんだけど、どうも冗談じゃないっぽい」
「……大変なことに巻き込まれたな」
「そーなんだよ。ごめんけど、午前中あった授業の分のノート見せてくれ。利二」
「それは構わないが、田山。お前はこれから大丈夫なのか?」
食事していた手が止まる。
これから大丈夫なのか、それは当人の俺にさえ分かっていない。
大丈夫じゃないかもしれないし、大丈夫かもしれない。
「分かんねぇ。ある日突然、俺がキンパになっていたら笑ってくれ」
「圭太くんが金髪かぁ。あんまり想像つかないけど」
想像して眉根を寄せる透。
今のところは笑うところなんだけどな。
「なあ、今から断るってことは無理なのか?」
「光喜。お前が俺だったら、断れるか?」
「……無理。無理。絶対無理」
「だろ? 俺もそんな感じだから、観念するしかないんだ。すでにワタルさん…貫名渉と知り合った上に、メアド教えたもんな」
「うっそだろー⁈」
本日二度目の光喜の絶叫が教室に響き渡る。
やっぱり驚くよな。
俺も驚いているよ。
「取り敢えず、お前等は関わらないように気を付けろよ。神経磨り減るから」
「気を付けろって、僕等どうやって気を付けるのさ」
「……俺の半径三メートル以内に近付かないとか」
光喜と透が思い切り椅子を引いて、俺から遠ざかる。
正直な反応してくれるなコノヤロー。
今のは、ちょっと傷付いたぜ。かぁんなり傷付いたぜ。
いやぁ、分かるんだけどな。
俺も二人の立場だったら関わりたくないって本気で思うもんな。ダチの災難が自分にまで降りかかって来るなんて、そりゃ俺も勘弁だしよ。
ただひとり遠ざからなかった利二は、変わらず険しい顔で玉子焼きを口に入れる。
「田山。お前はどうするんだ?」
「どうするって、どうしようもないだろうなぁ。あっちが舎弟の件を切るってなれば話は別だけどよ。今のところ、そういう雰囲気でもねぇし、そういう風な話が俺からデキるわけでもねぇし……ま、利二も俺の半径三メートル以内に近付かないようにして、関わらないように気を付けろよ。その方がお前の身のためだぜ」
「人の心配をしている場合じゃないだろ。自分の心配をしろ」
利二は真っ直ぐ俺の心配をしてきてくれた。
お前、薄情者だけどさ、マジ薄情者だけどさ、
「利二は大人だよなぁ。アレより」
「アレ言うなって。俺だって一応、心配してやっているんだぜ?」
「そうそう。これでも僕等、圭太くんを心配しているんだよ」
嘘つけ。じゃあ、さっきの行動はなんだよ。俺から遠ざかったままだし、説得力ねぇって。
そういえば、ヨウとワタルさん。コンビニに飯買いに行くっつっていたけど、その後、何処で食うんだろう? 体育館裏かなぁ?
俺、一緒に食う約束はしてねぇから安心だけど気にはなるな。
深い溜息をついていると、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。
利二達が硬直、俺も硬直。
でも俺はぎこちなく利二達の方を見ると、視線で「離れておけ」と俺から離れることを強要する。
利二達はすぐさま俺から離れた。
心の片隅で薄情者! とか思っているけど、離れてくれた方が都合も良い。