青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
アイスの中からバニラが顔を出し始める。
二つの味を楽しみながら俺はヨウに、
「どうして不良になろうと思ったんだ?」
大したこともない質問をぶつけた。
どうしてこんな今更感ありありの質問をしたかったのか、一応ハジメから理由は聞いているのに。
きっとヨウの口から教えてもらいたかったんだと思う。話題が他に見つからなかったというのもあるんだけどさ。
「きっかけは親だ」
ヨウは躊躇なく返答する。
親が気に食わなかった反抗心が身形に出たんだと。
特別な理由も何もない。
なーんてことのない小さな理由だったと語り部は神妙な顔を作る。
そんなもんだよな、不良になる契機って。
「ケイはさ、ヤマトの舎弟になりてぇって思ったことはなかったか?」
今度は俺が質問される側になった。
しかも幾分と重たくストレートな質問だ。
けれどヨウ自身に悪意はなく、きっと純粋に知りたいと思ったことなのだろう。
なら、俺も純粋に答えてやるまでだ。
「“ならなきゃいけない”と思ったことはある。でも“なりたい”と思ったことはない」
いつぞかの事件を思い出し、軽く目を伏せる。
利二を人質に取られたあの瞬間、俺はあいつを失いたくない一心で“ならなきゃいけない”と思った。
なれば、利二を傷付けることも、失うこともない、そう強く信じたから。
でも、利二に止められた行為と脳裏に過ぎったヨウの仲間に対する思いのせいで俺はフルボッコの道を選択せざるを得なかった。
「どうせならヤラれるなら、まがいものでも荒川の舎弟としてヤラれたいと思った……俺は今も利二の勇気と自分の選択に誇りを持っているよ」
おかげでお前と対立することもなかった。
これで良かったのだと俺は自分に言い聞かせる。
例え、健太の存在が心に翳を落としても、俺はこれで良かったのだと信じたい。
「俺がもしも別の道を取っていたら、どーなっていたんだろうなヨウ」
間を置いてヨウは肩を竦めた。
「さあな。そういう未来があったかもしれねぇって想像はついても、関係については何とも言えねぇよ」
ほんとにな、俺も想像つかねぇや。
ヨウを裏切って日賀野の舎弟になって、最悪対立しちまうなんて。
今の関係が当たり前だって思っているからこそ、対立する光景なんて目にも浮かばない。
浅倉さん達みたいな関係になったかもしれないなんて……今更想像もつかないや。
だからこそ利二に感謝だな。あいつが止めてくれなかった俺は、負い目を感じながらもヨウを裏切っていた。確実に。
「対立していたかな?」「かもな」会話に一区切り、「ヨウにフルボッコされてたかもな」「……かもな」会話に一区切り、「ヨウは浅倉さんみたいに別の舎弟作っていたか?」「さあな」会話に一区切り。
淡々と脈のない会話を交わしてく俺等だったけど、結局俺等の会話は全部『かもな話』『もしも話』で終わる。
幸か不幸か。
俺等はこうして未来を掴んでいる。
行き当たりばったりで不確かな舎兄弟関係から、お互いに最後まで信じていこうと確かな舎兄弟関係に、俺等はなっちまったんだ。
これが今の俺等。
手探りで未来を歩いている俺等の現実。