青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



こうなったらヤマトだけでも。五十嵐や帆奈美がいるであろう上に行かせるべきだとヨウは判断し口を開いた。


同時に「あひゃひゃのひゃー!」ウザ口調でヨウとヤマトの間に割って入り、前に出る不良一匹。

ワタルに加担するように鉄パイプを持ち、ブンッと振って相手を威嚇する。


「角材なんかよりタチが悪いぞい。お骨を折っても、アキラたんは知らないんだぞい。かっこハートマークかっこ閉じる」

「ンマー、アキラちゃーん鬼畜」


「前者はお褒めとして受け取っとくぞい」


ウィンクするアキラにキモすと笑声を漏らし、ワタルは持っていた角材を握りなおして彼と団体に突っ込む。


無理やり隙間を作り、敵達を蹴落とし、


「進め!」


階段の麓で構えているヨウとヤマトに一喝。


あくまでお前等の相手は雑魚ではなく五十嵐だと声音を張り、二人は完治していない体を張って道作りに励んでくれた。


彼等の努力を泡にするわけにもいかない。

ヨウとヤマトはアイコンタクトを取り、小さく頷くと落ちてくる不良達を避けながら一段一段上にあがっていく。


二階フロアに辿り着くと、そこにも獲物を待ち構えている団体様方。

今まで二階で悠々と休息でも取っていたのだろうか。それなりに人数がいるのだが。


それとも五十嵐が自分達を警戒し、予備軍を用意していたのか。どうやら見渡す限り、親玉は二階フロア入り口にはいなさそうだ。

S-4倉庫は広い倉庫ではあるが、此処は二階建。

一階にいないということは二階にいる筈。


奥にいるのだろう。


「ヨウ、ヤマト、止まるな!」


階段を上って来るシズが前へ進むよう促してくる。

団体は自分達が相手にするから、お前等は一刻も早く五十嵐達を! 声音を張るシズはススムやワタル達と共に二階フロアの団体に突っ込んで行く。

まったくもって頼もしい仲間達だとヨウは一笑し、ヤマトに行くぞと声掛けをする。


「って、あれ?」


思わず間の抜けた声を出してしまう。自分の隣にいた筈のヤマトがいない……はて一体何処に。


「荒川! 何してやがる! さっさと来いノロマ!」


大喝破が鼓膜を振動した。


「はあ?!」


ヨウは素っ頓狂な声を上げ、アリエネェと足を動かし始める。

ヤマトは既に向こう前方を走っていたのだ。いつの間にあそこまで距離を置かれていたのか。

「ちょっと待ちやがれ!」

声掛けくらいしろと悪態を付き、ヨウは急いでヤマトの後を追い駆けたのだった。






「あーらら。ヨウちゃーん、ヤマトちゃーんに置いていかれた」


始終やり取りを横目で見ていたワタルは仲の良いことだと皮肉と一笑を零す。

あの二人はいつだってそうだ。

仲が悪い一方、漫才のような会話を交わして自分達を笑わせてくれる。

二人は断固として否定するだろうが、ある種二人は最高のコンビと言える。


ふと脇腹に痛みが走った。

攻撃を受けたわけではないが、完治していない体が軋み、軽く悲鳴を上げたのだ。


その隙を突かれ、相手に背後を取られる。


こりゃやっべぇ、ワタルが空笑いを浮かべた刹那、向けられた拳が鉄パイプによって叩き落される。


相手の苦痛帯びた悲鳴にも、

「喜色を感じるゾイゾイ」

背筋がゾックゾクすると口角を舐める某鬼畜不良。

瞠目するワタルだったが、彼の台詞に悪趣味だと頬を崩す。


「ンモー、助けてなんてヒトコトでも言った? 僕ちん」


すると彼は無邪気に、そしてあどけなく目で笑ってきた。


「ククッ。ワタル、情けないぞい。ワシに助けられるなんて。
まあ、助ける理由をあえて挙げるなら? 今、ワシはお前と一緒に喧嘩しいている、からかのう。それにお前を倒すのはワシと決まっておるしのう」


ニッと笑うアキラに面食らっていたワタルだが、ニカッと笑い返し、揃って持っている凶器の先を相手に向ける。

そう、アキラの言うとおり、今は元親友と一緒に喧嘩をしている。


対峙ではなく、仲間という形で喧嘩をしているのである。


今後どういう関係を築こうとも今は、この瞬間の関係を楽しむべきだ。


「久しいな。俺サマとお前でコンビを組むなんて。対峙していた方が時間的に短いっつーのに、久しくて笑えてくる」

「まったくじゃい。おっと、向こうでシズやススムも名コンビネーションを繰り広げているようじゃい。こりゃ負けるわけにはいかんのう。ワタル」


なにせ、このコンビネーションでは誰にも負けたことないのだから!


「俺サマと」「ワシが揃えば」「天下!」「無敵!」「つまり」「それは」 「「最強!」」


ケラケラゲラゲラ笑って二人は持っていた凶器を放り投げる。

あの頃の名コンビが揃ったのだ。


凶器なんて不要ふよう。


自分達自身が凶器的存在なのだから!

拳一つで団体様方を相手取っていやるぜベイベ。


二人は最高にアクの強い、けれども何処か活き活きとした笑顔を浮かべたのだった。



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