青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
◇ ◇ ◇
ヨウが学校に登校してきたのは、昼休み終わりかけ。
体育館裏でたむろってたら晴れ晴れとした顔でやって来て、こう仲間内に言ったんだ。
「ヤマト達と協定継続、停戦を結んだ」と。
あらかた提案をされていたし、近々するんだろうなっと分かっていたから告げられても驚きはしない。
寧ろ、やっと向こうチームと停戦したのか、と思ってしまう。肩の荷が下りた気がした。
個々人で思うことはあるだろうけど、俺的には一安心。
もうあいつ等とドンチャンしなくて済むのだから。
向こうの戦法は俺たちと違ってすこぶる巧みで、すこぶる卑怯。生傷絶えなかった。
嗚呼、やっと終わったんだ。傷付け合う喧嘩が。
まあ蛇足として、
「またぶつかるかもしれないけどな」
ヨウに苦笑いはされたけど、それは今後の俺達次第だろう。
このことは改めて放課後にメンバーを集めて報告するとヨウは説明し、言葉どおり学校が終わると喧嘩に関わったメンバー全員に声掛けして面子を集めた。
残念なことに利二はバイトで顔を出せないと辞退しちまったけど、他の面子はちゃーんといつものスーパー近くの倉庫(たむろ場)に顔を出すみたいだ。
タコ沢だけは「もう終わりだろうが。俺様が行く意味が分からん」と文句を垂れ、鼻を鳴らしていたけど。
それどころか俺とヨウに勝負を挑んできたんだけど……おいおい、タコ沢。まーだ雪辱を晴らそうとしてるのかよ。
もう忘れようぜ? お互い喧嘩を乗り越えた仲じゃんかよー。
そりゃタコ沢の名前は俺とヨウのせいだけど(正確には俺のせいだけど)、プリティなネームだと思うよ?
これからもタコ沢元気として仲良くしていきまっしょいそうしまっしょい!
ついでに喧嘩はごめんなんだぜ! 今しばらく喧嘩の「け」も見たくねぇやい!
こうして面子を揃えて、俺達はたむろ場へ。
その前に俺達は正門でばったりと待ち人に出くわした。
私服姿プラス松葉杖をついて俺達を待ち伏せていたのは、謂わずもハジメ。サプライズ登場に俺達はびっくりしちまった。
だってハジメの奴、まだ暫くは通学できないと聞いていたからさ。
祖父母の家で体を療養すると思っていた、そのハジメが待ち伏せ攻撃とか、どんな奇襲だよ。
「やっ」
片手を挙げて挨拶してくるハジメは、覚束ない足取りで俺達に歩み寄って来た。
来るや否や、「遅いって」待ちくたびれたと盛大に文句を浴びせてくる。
「このまま待ちぼうけして寝るところだったよ。もう少し早く来てくれると、怪我人にとっても嬉しいんだけど?」
小生意気を言うハジメに俺達は笑声を漏らした。
相変わらずだよな、ハジメ。口だけは達者、元気も元気だな。会えて嬉しいよ。
あ、ハジメと弥生の仲なんだけど、お互いに愛の宣戦布告しているからか何なのか、顔を合わせた途端照れ笑い。
「はよっ」ハジメの挨拶に、「こんにちはでしょ」弥生があどけなく笑って、二人はラブラブな雰囲気を醸し出した
「あーあーあ、見せつけてくれちゃって。おい、行くぞ。ヘタレハジメと弥生嬢さんのお時間を邪魔しちゃなんねぇよ」
ヨウがからかい口調で肩を竦め、俺達を誘導。
「ちょっ?! 初っ端からその扱い?!」
素っ頓狂な声を上げるハジメと、照れ笑いを浮かべている弥生を置いて、俺達は一足先にたむろ場へ。
ヨウは誰よりも微笑ましそうに「ゆっくり来いよ」、去り際にハジメの脇腹を小突いて笑っていた。
随分と年上の兄貴顔に見えたのは、うん、あいつにも色々あったからだろう。
あいつからこっそりと帆奈美さんのことは聞いている。
ヨウは悔いのない顔をしていた。
気持ちを知っているだけに、舎弟としては寂しいような悲しいような気持ちに駆られたけれど、舎兄が出した答えなんだ。
俺がとやかく言う権利はない。
なにより舎兄が吹っ切れたように笑っていた。それは自棄じゃない。素の顔だ。話し合いで前進したみたいだ。
だからなのか、ヨウが一回りも二回りも器の大きい奴に見えた。
今のヨウならどんな恋人ができても上手くいくだろう。
その時は全力で応援したいと思う。