青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
お互いにワザと怪我した箇所を狙い、服を引っ張り合って床に押し倒して、転がっては相手よりも有利に立とうと馬乗りになる。
引っ掴み合いの喧嘩をしながら利二が怒声を上げてきた。
「お前が勝手な判断をしたばっかりに、こんなことになったんだ! 分かるか田山!」
「分かるかよ! 大体、さっさと利二が帰っていたらもっと別の流れになっていたんだ!」
「あの状況で帰れるか?! 帰れるわけないだろう! あの状況で帰れるような器用な奴なんていないだろ! いるなら自分の前に連れて来い!」
利二の拳が肩や腹部や面に当たる。俺も負けじとやり返して怒声を張った。
「いたとしてもお前の前になんか連れて来るかよ! 日賀野にビビッてたくせに!」
「その言葉、お前にだって言えることだろ! それに田山よりはビビッてなんかいなかった! ビビりの腰抜け!」
「お前はビビりじゃないってか?! んじゃ、今度髪染めてお前をビビらせてやるよ! ぜってーお前ビビるから!」
「やってみろ! 中身を知っているんだ! 染めたとしても鼻で笑ってやる!」
「ケイ、ケイ! テメェ怪我しているんだ! やめろ! 落ち着け!」
「五木、あんたもヤメロって! ちょ、落ち着けよ!」
俺達の間にヨウとモトが入ってきた。
掴み合う俺達を引き剥がそうとしながら「落ち着け!」とヨウが声を荒げる。
けど頭に血が上っている俺達には聞こえない。ヨウ、モトの声が無情にもゲーセンのBGMによって消えていく。
俺はとにかく悔しかった。
利二の吐く言葉の意味が分からなかった。
あの時ああするしかなかったじゃないか、何で分かってくれないんだ、何で俺がカッコつけなんだ、色々と気持ちがぶつかり合って昂ぶる。
下唇を噛み締めて、引き剥がそうとするヨウ達の手を振り切って利二に思うがまま手を上げた。
気持ちをぶつけるように殴れば、負けじと利二の拳が飛んでくる。
至近距離にいる俺は、それを避けることも出来ず、フルボッコされた身体で受け止める他なかった。
「俺にどうして欲しかったんだよッ、言ってみろよ!」
「どうかして欲しかったわけじゃない!」
「なんだよ、それ! お前の言うこと分かんねぇよ! 利二には関係ないことだったのに、ああやって巻き込んでッ、俺はあの時どうすれば良かったんだよッ。どうしようもなかったじゃないか……っ、ああするしかなかった! そうだろ?!」
お前には分からないくせにッ。
あの時、追い詰められていた俺の気持ちなんて分からないくせに。
知り合って日の浅い日賀野に目を付けられた上に、ダチを巻き込んで、惨めに負けてフルボッコされた俺の気持ちなんか。
「言うとおり、どうしようもなかった。どうしようもっ、あれが最善の手だっただろうっ」
思わず振り翳した手を止めてしまった。
あがった息を整えもせず、俺は利二を凝視する。
「お前にとっても、自分にとっても。そんなこと分かっているッ……! だからっ、だから腹が立つんだっ」
俺に向けていた手を下ろし、一呼吸置いて利二が今までにないほど静かな声を出してきた。
「途中の過程がどうであれ、お前の判断は自分の目から見た限り間違っちゃいなかったんだ。日賀野の誘いを断ったことも、自分を逃がしたあの行為も、」
利二の言葉はまるで冷や水。一気に怒りが冷めていく。