青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「なあ!」



俺は思わず首を引っ込めてしまった。

だってよ、いきなりモトが怒声に近い声を上げてくるんだぜ? ビックリしない方が無理だって。


そんなモトはというと決まり悪そうに握り拳を作って唸っている。

一頻り長い唸り声を上げたモトは、俺を見据えて指差してきた。



「今日のことは今日でお仕舞いだぜ。明日からは明日のことを考えろよ! そんなツラじゃヨウさんに迷惑だろ? 茶でも飲んで反省しろ! 分かったかッ、バッカヤロウ!」



吼えるだけ吼えてモトは俺に背を向けると、逃げるように三階のフロアに通じているエスカレータに向かって駆け出した。

途中、足を止めて振り返ってくる。


「五木に謝っとけよ! あ、ああ謝れないなら……オレが一緒に謝ってやってもいいからな! その代わりまたゲーム貸せよ!」


一緒に謝ってくれるってお前は俺のおかんか。

人目も気にしないで俺に向かって吼えたモトは、今度こそ三階のフロアに駆け上がってしまった。


呆然として俺は押し付けられた缶緑茶に目を落とす。

あいつ一体全体何しに来たんだ。


俺を罵りに来たのか、説教しに来たのか、励ましに来たのか、ゲームのこと言いに来たのか、わっかんねぇ奴だな。モトって。 


しかも緑茶、何故に緑茶。豆乳や野菜ジュースよりかはマシだけど緑茶って。


俺って健康オタクってイメージ持たれやすいのか……いやでも今までの中じゃイッチバンマシだ! 寧ろ緑茶は好きな分類に入るから感謝するけどさー。



モト、結局何しに、



「ありゃモトなりの詫びだ。あれでも一応、反省してアンタに悪いって思っているみたいだぜ?」


「響子さん、いつの間に」



今まで姿が見えなかった響子さんが、俺の隣で壁に寄り掛かりながら煙草をふかしている。

響子さん曰く、俺と入れ違いにゲーセンを出てシズやワタルさんと付近を歩き回っていたらしい。

日賀野を含む仲の悪い不良グループが近くに潜んでいるんじゃないかって偵察に行っていたんだと思う。舎弟の俺を利用してヨウに仕掛けようとしていたんだ。

響子さんたちは警戒しているんだと思う。


あくまでこれは俺の予想、詳しくは聞かなかった。


「ケイ、アンタ此処でも喧嘩したんだって? ヨウから聞いたぜ」


振られた話に俺はちょっと戸惑ったけど、隠してもしょうがない。本当のことだし。

苦笑いを浮かべて首を縦に振る。響子さんは紫煙を吐き出して俺に視線を向けた。 


「ダチと喧嘩する前にモトがアンタになんか言ったらしいな」


そんなことあったっけ。

俺の記憶には利二の喧嘩したことしかないぞ。モト、俺になんか言ったっけ? 言ったとしてもいつものノリで悪態か何かをつかれたんじゃないかと思う。


あんま記憶にない、利二との喧嘩が衝撃的過ぎて。


「手前の発言がキッカケで喧嘩が起こった。モトはそう責任を感じているみてぇだ」

「モトがキッカケ? そうだったかなー……俺と利二の問題な気がするけど」


「あいつ根は良い奴なんだ。悪く思わないでくれ。ガキなんだ、モトは」


また一つ紫煙を吐き出し、響子さんはポケットから携帯灰皿を取り出していた。

常に響子さんは煙草を吸うんだろうな、手馴れた手つきで灰を中に落としている。

フロンズレッドのサラサラとした髪を耳に掛けて、煙草を銜える響子さんって大人っぽいよな。


色っぽいわけじゃないんだけど、大人っぽい。俺の一つ年上って思えないよな。


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