青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
ボンヤリと響子さんを見ていたけど、あんまり見ているとガン見していることになる。
なんかそれは……決まり悪い。俺は目を逸らすことにした。
「ダチから聞いている。ケイ、ヤマトに狙われたんだろ」
「え、あー狙われたっつーか。利用されそうになったっつーか。日賀野と偶然会って」
「ったく。ヤマトの野郎。ハジメの件といい、ケイの件といい、狡い手ばっか使ってきやがって」
盛大な舌打ちに俺は思わず視線を戻す。
忌々しそうに響子さんが煙草の先端を噛んでいる。
指の関節を鳴らしている姿を見た俺の心境は“泣きたい”だ。
相変わらず響子さんってオッカナイよな! さすが不良さま! 俺、こういう女性は絶対敵に回したくないよ。
内心ビビリまくっている俺に響子さんが微笑してきた。
「あのヤマトに言い寄られても、よく断ったな。ヤラれ方は酷いようだけど、その傷、男の勲章だぜ?」
「断る覚悟を持てたのは利二のおかげですよ」
あの時、断り切れたのは俺だけの力じゃない。
一時は日賀野の脅しを呑み込もうとした俺を止めてくれた利二のおかげだ。
利二が止めてくれなかったら、俺はきっと日賀野に屈していた。ヨウに背を向けていた。当たり前のように利用されていた。
俺はあの時起こしてくれた利二の行動を思い返しながら、響子さんに告げた。
誘いに乗ろうとした俺を蔑視するかと思っていたけど、響子さんは笑みを深めてきた。
「ンなちっせーこと気にしているのか、ケイは。誰も気にしちゃねぇよ。アンタはヤマトの誘いを断った。それがアンタの答えだろ? 気にしているとダチにも失礼だぜ」
「だけど俺は」
「ケイ。アンタの気持ち次第だ。手前の行為を許せずに悔いるのか、ダチを巻き込んだことに責め苦するのか、それともアンタ自身選んだ結果を後悔するのか。それはアンタ次第。誰でもない、アンタを責め立てているのはアンタ自身」
「だろ?」響子さんは同意を求めてくる。
少し間を置いて俺は頷いた。
響子さんの言うとおり、俺は俺自身を許せていない。
あの時、利二のことがあったとはいえ迷ってしまった弱い自分が情けなくて惨めで、どうしても許せないんだ。
自分の不甲斐無さに溜息が出る。
俺ってこんな負けず嫌いっつーか、変な意地を持つ男だったっけ? 自分にビックリだぜ。
持っていた缶を軽く握ってまた一つ溜息、瞬間、俺の頭にチョップが飛んできた。
い、イッテェ! 今のチョップ、結構痛かったぜ!
俺にチョップを食らわせてきた奴はひとりしかいない。
頭を擦りながら響子さんに視線を送る。軽く笑いながら響子さんは俺の額を指で弾いてきた。
「アンタの判断は半端なモンじゃなかった。ダチの話聞いてりゃ誰だってンなの分かる。それでも手前が自分許せねぇっつーなら、今以上に行動を起こしてみろよ。何もしねぇでウッジウジするな」
響子さんの手厳しい言葉に、俺は目が覚めた気がした。
許せないならそれ以上に行動を。
そうだ……俺はフルボッコされたことや、利二を巻き込んだことや、自分の起こした態度でウジウジばかりして、これからどうしようかなんて考えてない。
じゃあ、俺はこれからどうするべきなんだろう?
響子さんに聞こうと思ったけど止めた。こういうのって人に聞くもんじゃないしな。
フロンズレッドの髪を耳にかけている響子さんが、フッと笑みを浮かべて俺にこんなことを言ってきた。
「気合の張り手を一発お見舞いしてやろうか? 気分が晴れるぜ」
冗談じゃない! これ以上、俺のカラダに痛みを与えないでくれ! ぶっ倒れる!
俺は必死に首を横に振った。
「冗談だよ」
可笑しそうに響子さんが紫煙を吐いた。