鬼の火まねく赤子の声
 もしかして、自分だけが白峰を千鶴子と呼んでいたのだろうか。本当に、狂ったのは沖だけだったのだろうか。
 今、世間でいったい何が起こっているのだ。沖の気づかない間に、世界はひっくり返ったのだろうか。そんな風にすら思える。
「鬼火や」
 子供の一人が墓の方を指さした。朝日に浮かぶ鬼火が千鶴子のあの頃の唇よりも赤く、空をそのまま染めてしまいそうな気がした。こんなにも澄んだ青い空を、まるで違う色に見せる鬼火の力の大きさと無念さを思う。
 死にたくなんかなかった。鬼火はそう言っている。
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