いばら姫と王子様 ~AfterDays~
§触れたいモノ

 └玲Side*****

 玲Side
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僕が医師免許を取得したのは、櫂の為だった。


櫂に万が一があった時、命を預けられるのは信頼出来た人間がいい。


病院にいかずとも、結界の張った家で治療が出来れば尚更いい。


だから僕がなった。


海外の飛び級制度と、紫堂財閥の力を利用して、最短で無理矢理とった医師免許。


櫂や仲間達以外を診るつもりはないという理由で、特例中の特例で秘密裏に付与された医師という資格が、まさか芹霞の為に役立つ物だったとは、更に僕が問題を抱える"心臓"の部位だったとは、その時の僕は考えていなかった。


さすがに。


好きな女性の胸を切り開くことは拒んだ。


僕なんかより、より実践的に名の知れた名医がいるから、手術は彼に任せ、アフターフォローは僕がした。


名医の腕をもってしても、芹霞の胸に残った傷跡。


時間が経てばマシになるだろうけど、術後は皮膚が引き攣って紫色に変色し、見るからに痛々しい。


それを診察で目にする度、僕は心が痛んだ。


芹霞は真っ赤になってあまり傷口を見せようとはしないけれど、いつだったか、身をよじって逃げようとする芹霞があまりにも可愛すぎて、我慢できなくなって…ただ心臓の診察だけのつもりだけだったのに、好きな女の乳房だと考えないようにしていたのに…気づけば芹霞を抱きしめ、パジャマの乱れた裾から飛び込んできたその傷痕に、思わず唇を寄せたことがある。


それは本当に衝動的で、芹霞のすすり泣きに気づいて、その先に行為が進む前に、理性が働いた。


僕は自分がした行為で芹霞が驚いて泣いてしまったのだと思って自己嫌悪に落ち込んでいたけれど、ぽつりぽつりと言葉にする芹霞は、



「玲くん……。傷痕に触って、気持ち悪くないの?」



僕の"男"を拒絶している涙ではなく、傷痕というものに触れられたことに対する悲しみだった。
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