いばら姫と王子様 ~AfterDays~
 

君の前なら、僕はいつも医者を忘れるよ。


君の前なら、医者を利用してでも君に触れたいんだ。


触れさせてよ、君に。


溶かせてよ、君を。


「……お医者さんの言葉に、患者は逆らえません」


ねえ、芹霞。


顔が赤いよ。


ねえ、芹霞。


君は僕との"あの"こと、覚えている?



触れたくて、触れたくて仕方が無い芹霞。


ああ、その尖った可愛い唇を奪いたい。



ここには櫂もいない、煌もいない。


完全僕と2人きりの僕の世界。


退院なんてしなくていいよ。


この世界に、他人はいれないから。



『入院中は、芹霞に手出しをしない』



そう言い出したのは櫂だった。


芹霞の身体を気遣うのもあったろうが、それは恐らく2人で多くいる僕への牽制。そして煌がそれに従えば、僕もそれに頷くしかなかった。


同じ女性を想う、男達の密約。


どうしてそんな約束をしてしまったのだろう。


芹霞はこんなに近くにいるのに。


だから僕は"医師"の仮面を被り、芹霞の傷痕に触れながら、自己満足にその日眠りにつく。


それだけでは満たされない心が騒ぎ出しているのに、必死に気づかないふりをして。



芹霞が退院したら。


だけど退院するまでは。


看護師だろうとなんだろうと、僕との時間を邪魔する他人は赦さない。


僕は芹霞のためだけの医師で、芹霞は僕のためだけの患者で。


それ以外に、必要はないのだから。

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