さよならさえも、下手だった
「いいのか?」
世間一般では父親というものは唯一無二の大切なものなんじゃないのか。
そう思った俺は一応確認を入れてみたが、男は掴みどころのない笑顔を崩さなかった。
了承したと示すように頷きをひとつ入れると男は満足そうに頷き返した。
「殺し方は任せるよ。ただ…」
「ただ?」
その瞳に、やわらかく冷たい影が浮かぶ。
「できるだけ一瞬で殺してほしい」
その真意はわからないが、深くまで詮索はしないのが仕事だ。
「わかった」
「頼んだよ」
噴水の穏やかな水面に、彼の声がゆるりと溶けた。