さよならさえも、下手だった


メモ帳を買いに行くため、音都と二人でホテルを出る。

彼女はこれまで両親に、別人として生かされてきていた。
自分を偽って生きてきた時間はどれだけ長く、生きにくいものだったろう。

苦しい時間があまりにも長すぎて、彼女はもうそれを苦しいと思う心すら失ってしまっていた。


俺にぴったりと寄り添う音都に、次はどんなメモ帳がいいか訊ねてみる。
彼女はゆっくりとした動作で首を傾げると意味深に微笑んだ。


端から見れば、俺たちはどのように映っているのだろう。


平和な、何の悩みも無さそうな恋人同士。


そう見えていたのなら十分だ。
そんな風に見える程度には、俺たちは普通だということだから。


近くにあったコンビニに行くと、音都は前とまったく同じデザインのものを俺に手渡してきた。

「これがいいのか」

彼女が頷く。

「前のやつと同じだろ」

それでも彼女がそれを渡してくるので、それをレジに持って行った。



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