さよならさえも、下手だった


コンビニを出てホテルに戻る途中、音が急に立ち止まった。

つられて俺も足を止めると、音都はメモ帳に言葉を連ねていく。


《どうしてもこのメモ帳がよかったの。ありがとう》

「なんでそれがよかったんだ?」

質問すると彼女は、よくぞ訊いてくれたとばかりに文字を書く速度を速めた。


《最初に夜十からもらったメモ帳だから》

微笑む彼女。
音都がいる周りはまるで春のそよ風が吹く野原にいるような心地よさがある。

あまりにも心地よすぎて本当に現実なのかと不安になるほどに。


《ずっと大事にする》

でもこれが現実なんだ。

俺みたいな人間でも、ここにいていいんだ。




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