さよならさえも、下手だった
そう思った俺は近くの店でメモ帳とペンを買い、音都に手渡した。
音都は不思議そうに俺を見上げるとやわらかく笑み、最初の言葉をその手から紡ぎだした。
《ありがとう》
それが、音都が初めて俺に伝えた言葉だった。
そして彼女はさらに言の葉を重ねていく。
《私はあなたを怖いとは思わない》
「どうして?」
《だって本当に怖い人は、メモ帳なんて買ってくれない》
なんてお人よしだろう。
バカにも思えてしまうほどの。
「でも俺は、お前の親を殺した」
どんな思いだったろう、親を他人に殺された気分は。