さよならさえも、下手だった


そのままショック死してしまえればどんなに楽だったろう。
けれども刹那は、人を殺すことに関して天才だった。

だから俺は左目を刺されて多量の血を流してもなお、生きながらえていた。


苦しみからは解放されず、さらに大きな苦しみが俺に覆いかぶさってくる。


「その痛みを忘れるなよ、1004」

――忘れるなよ、決して。

そうささやいて、彼は去っていく。
彼は、どこまでも非情だった。



彼を殺すために生きていこう。
彼を殺すために人を殺そう。
彼を殺すために俺はここにいよう。

決意したからすべてに耐えられた。


思えば、なんて暗い希望だったんだろう。


でも、もうそんなことは考えなくていい。

音都がいるから、俺はそれだけでいい。


殺し屋なんて辞めて、平和に暮らしたい。
俺は、あの光の中で生きたい。


生きたいよ。



< 85 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop