【完】歌姫、そんな声で鳴かないで!
……重圧の中、撮影が始まる。



真紅の衣装、ブルーサファイアのカラコンの入った瞳。



『月野森きらら』になった彼は、確かにこの空間を呑み込もうとしていた。



美しく、切なく、流れる歌声に合わせて動く、真っ赤な唇。



野々村さんが用意したであろうミルク色のボブヘアーのウィッグを被り、まるでフランス人形のように美しいきらら。



私の時とは比べものにならない、このピリリとした空気。



息をする音でさえ、許されないような気がした。
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