君が教えてくれたこと
卒業証書授与、最後の生徒の名前が呼ばれると、体育館が静まり返った。

しばらくすると、クラスの女子達のすすり泣く音が、所々に響いた。
「渡辺由梨!」
先生は、最後に震える声で、由梨の名前を呼んだ。
「北山!頼む」
先生は突然、マイク越しに僕を呼び、ステージに上がる様に指示した。
「はい」
僕は、ステージに上がり、校長から由梨の卒業証書を受け取った。
「ありがとうございます」
校長に小さく一礼をすると、校長は、スタンドからマイクを取り、そのマイクを僕に渡した。
「えっ?」
「渡辺くんのことは、担任の高山先生から聞きました。君が、彼女と交際していたことも。北山くん。君の想いを、今ここに居る皆さんに話してはくれませんか?」

校長は、笑顔でそう言うと、マイクを僕に渡した。

僕は、マイクを握りしめ、渡辺由梨と書かれた卒業証書を見つめた。
決心して振り返ると、父母席には、由梨のお父さんとお母さんが、由梨の遺影を持って、立ち上がっていた。
由梨の笑顔が写った写真を見て、僕は泣くのを我慢出来なかった。
「あ、あの、すみません。由梨は、僕に教えてくれました。あの、生きるのって辛いです。ほんとに。だって、寂しいじゃないですか。でも、僕らは生きて行かなきゃいけないんです。産んでくれた人が居るんですよね。育ててくれた人が居るんです。だから・・だから、生きたいです。生きてるといいことあるじゃないですか。皆に会えたし、この学校で、思い出が沢山出来たし、一番は・・、由梨を好きになれましたから。生きてて、それが良かったって思うことです」
まとまりの無い、僕の言葉をここにいる全員が真剣に聞いてくれているのが分かった。
僕は、涙を拭うと、

「すみません。まとまり無くて・・最後に、由梨、卒業おめでと」

僕は、父母席にいる由梨に、言った。

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