お隣りのあなた。
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お母さんはわたしの手を取って、ちゃーりーを持たせた。愛くるしい顔がわたしの顔を除きこんだ。

「ななちゃんが、行っちゃう前に家に来て、取り替えて言ったの」

『おとなになったら、必ず菜乃子ちゃんにキャンディー、絶対返すから、返しに来るから、菜乃子ちゃんは、代わりにわたしのちゃーりー持ってて』


“絶対返すから、返しに来るから”


「おとなになったら、ななちゃんが菜乃子に会いに来てくれるから、あんたはまたななちゃんに会えるのよ」

またななちゃんに会える。
ちゃーりーに落としていた視線を上げてお母さんを見れば、お母さんは優しく微笑んでいた。

「…ほ、んと?また、ななちゃんに会える?」
「ななちゃんが言ったんだから、ななちゃんがきっと会いに来てくれるわよ」

頭にぽん、と軽く手を置いてお母さんは一言、「帰ろうか」そう言って立ち上がりわたしの手を握る。わたしもお母さんの手を握り返す。お母さんの手は、さっき感じた寂しさは無くて、どこか温かかった。

「お母さん」
「なに?」
「ありがとう」
「…どういたしまして」

――おとなになったら、またななちゃんに会える。
だから、今悲しむ必要はない。

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