光と闇
男は青年に向けて鞭を飛ばした。ピシィッと大きな音と共に青年は倒れた。
顔面に食らったらしく、顔を抑えている。
ポタッと鼻から血が流れた。鼻血なんて、いつ以来だろうか。
青年は奥歯をギリッと噛み締めた。
虫けらと言った。奴隷となって働き続けた強い人に向かって“虫けら”と言ったんだ。

青年は喉の奥から声を絞り出した。
「うるせぇな」
「あ?」
青年の抵抗を込めた言葉に敏感に反応した男は、わざとらしく耳に手を立てて聞きなおした。その行動はまるで、奴隷が何口答えしてるんだ?とあざ笑っているように見えた。
「お国なんて知らねぇ。俺らにこんな無茶な事させる国が、誇りを持てるような国には見えねぇな。お前、ここの仕事したことあんのかよ。やったことねぇくせに口出すな!!!」
思っていた不満をすべて吐き出した。正直、青年はスッキリしていた。
後先は考えずに、思ったことを口に出したことは無謀と言える。だが、それ以前に青年には人々に持ち得ない“勇気”を持っていた。
だが、時代は感情そのものを必要としなかった。
――口答えした青年は、鞭で拷問にあった挙句、燃やされた。
縄で動けなくして、打撲で顔を腫れあがらせた。呻き声と鞭の音と男の罵る声だけが聞こえていた。
「オラッ、てめぇさっきの威勢はどうしたよ、ええ?」
男のニヤリと笑った顔は、青年に不快感を味合わせた。だが、そんな事を思わせる暇もなく、鞭を打ちつけられる。
意識を失わせてはくれなかった。薄っすらと目を開けると男が不敵な笑みで笑っていた。歯並びの悪い口を見せる。
足を濡らされた。何かと疑問に思ったが疑問はすぐに晴れた。この匂いはガソリン――
「へっへっへ、じわじわと燃えろ、カスが」
ああ、燃やされるんだ――と朧な意識の中、思った。恐怖も、憎しみも、感じられずにいた。拷問からか、もう何もわからなくなっていた。
男のことでさえ、どうでもいい。
男は少し離れたところに避難すると、常備していたマッチ棒に火をつけ、そして――
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