倦怠期物語

②町子さん

待ち合わせの場所は渋谷に決めた。

「誰かに見られるのが怖いから人が多いところがいいわ」

町子さんに言われ、それもそうだと思った。
妻の勤務先の病院は東中野なので、その点、俺も渋谷が好都合だった。

日曜日、夕方の6時。
久しぶりの渋谷は相変わらず人が多い。
冬の寒さを忘れるほどの熱気。

JRの改札出口なんて、こんな場所で待ち合わせるんじゃなかった。
大学生やら専門学生やら、10代後半から20代にかけての若人で溢れ返っている。
ジーンズにダウンジャンパーの軽装で良かった。コートなんか着てきてたら、それこそ場違い親父になってた。

町子さんの目印はパープルのブルゾン。
人ごみの中から、柱にもたれる紫色の上着が見えた。

あの人だろうか。

近づいて会釈をする。

「すいません・・・えーと、町子さん・・・?」

「はい。直太郎さん・・・?」


俺は返事をすることも忘れていた。

うそだろっ。

実際の町子さんは、サイトに掲載されていた写真とはまったくの別人だった。
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