トリップ

「・・・ッッ!」

驚愕で呼吸が止まりかけた。
今彼がしていることは多分赤ん坊でなければ誰でも分かる事である。

(殺人だぁぁー!!)

エリカは心の内で叫ぶ。
学習能力が低く、すぐに叫んでしまうキャプテンと違い、エリカは窮地に立てどちゃんと計算しているらしい。

(ここ・・・絶対逃げたほうがいいよね・・・。うん、逃げてまえ自分・・・!)

パニックにならないように自分に語りかけながら、ゆっくりと後ろに下がる。
ガラスの破片などを踏みつけてしまわないように、足元を確認しながら後退していく。
鼓動が激しくなるが、音だけは立てないように息を吐いた。
リクの姿は見えるが、彼は気付いていないようだ。と、思ったその時。

「随分・・・計算的な逃げ方をしているな。」

リクが発した言葉だ。
ビクッとしつつも、気付いてたのかと冷静な表情を見せる。
ここで怯えた表情は、男相手には逆効果なのだ。
怖がっている表情を隠すために、エリカはわざと顔を恐怖で引きつらせないようにする。
殺されるかもしれないが、いたぶられるよりはましだ。
そんなエリカの様子を、リクは睨む事も嘲笑うこともしなかった。
整った顔と大きめの瞳から発せられる揺るがない、それであって落ち着いた視線が突き刺さる。
それほどまでの貫禄で本当に未成年なのか?
この状況で一つだけ、必要のない疑問が浮かんだ。


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