トリップ

「もう入って来ていいわよ」

そう言われて、エリカは恐る恐る、それであって表情で何事も無かったような顔をして「2人の話は聞いてませんよ」と言うことを強調するかのような素振りだ。
なにせ、聞かれていれば困る事なのだろうからだ。彼にとっては。

「お話、終わりました?」
「うん。まぁね」

秋乃が横目で見てきたので、リクはムッとして見返す。「気まずいでしょ」と小さい子供を小馬鹿にするような悪戯っぽい視線だ。

「じゃあ、あたしちょっとトイレ行って来るね。化粧落としてくるから」
「あ、おい待て」
「じゃあね。せいぜい仲良くしなよ」
「だっ、ダメだっ!本当にやめてくれ・・・、一週間こき使われてやるからっ」
「ばいばい♪」

必死の懇願も虚しく、秋乃はひらひらと手を振って出て行ってしまった。あれは絶対にわざとだ、とエリカは思う。これでは気まずくて話すら出来ない。
とりあえず壁にもたれかかったが、しばらくの間沈黙が続く。お互い相手の気持ちが分かってしまったので、以前のように上手く話せない。

テストの時でもここまで静かにはならないだろう。

長く続いた沈黙の中、先に口を開いたのは意外にもリクだった。

「さっきの話・・・聞いてたか?」

うっ、とエリカは呼吸が止まったかのように言葉を詰まらせる。勿論聞いていたが、相手のことを考えれば聞いていないと答える以外はない。

「・・・聞いてません。なにを話とったんですか?」

そう言ってやると、溜め息ではない深い息を漏らし、肩の力を抜く。



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