傷だらけのヴィーナス
―――ブブブッ、ブブブッ……
突然、手に握っていた携帯電話が鈍い音をあげて震えだした。
ディスプレイには“間部左京”の文字が相変わらず表示されている。
私は戸惑いながらも通話ボタンを押した。
「はい、もしもし」
『こんにちは、有紗ちゃん。もう起きてた?』
電話越しに聞く主任の声は、なんだか耳元で話をされているようでくすぐったい感じがした。
「起きてるかって…とっくにお昼過ぎてますよ?」
『そっかそっか、そうだね』
「…何かご用ですか?」
何の用件か全く言わない主任に、私はそう尋ねた。