空に手が届きそうだ
「えっ……………。」
「好き、」
「うん。」
「でね、私、私…………。」
言葉が詰まって、上手く言えない。
「優。」
少し、近づくだけで小さくなる体。
「ちゃんと、聞いてるから。」
俯きかけた顔を、ぐっと堪えて深の目を見た。
すぐ目の前にある、優しい笑顔。
「あのね、」
「うん。」
「引っ越しするの。」
(言えたっ。)
良かったという安心の後に、押し寄せたのは深の言葉。
「どこ、行くの?」
「えっ……。」
「どこ行くの?」
「A、県。」
「はっ!?すぐ近くじゃん。」
「車で、二時間」

「だって、二つ以上も離れてる」
「近い。」
「でも……。」
言いかけた言葉を遮るように、頭を撫でた。
「びっくりして、損した。」
そのまま、頬に手を滑らせる。
「深さん?」
柔らかく笑うだけで、何も言わない。
「あの……。」
「会いに行くから。」
「えっ、でも、」
「ダメって、いうな。」
離れてしまった、手。
「でも……。」
懇願するように訴えようとすると首を振られた。
優の顔を、まっすぐ射抜く瞳。
「お母さんから、電話あったでしょ?」
「うん、」
顔を背けようとしたが、優と呼ばれて顔を上げた。
「俺の方が好きだから」
< 71 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop