鏡の中の僕に、花束を・・・
14
奴は疑問に埋め尽くされていた。
「なんなんだ、この感覚は?」
冷たい鏡の中で叫んだ。言葉も、少しわかり出していた。前より言葉が流暢になっていた。
「したい。したい。したい。」
何度も欲望を叫んだ。狂ったように叫び続けた。
今、外の世界には母親の姿が見えている。大好きな母親だ。なのに、何も感じなくなっているのがわかった。でも、理由はわからない。だから、イラついていた。
「こっちを見て。」
母親は晩御飯の支度をしていた。それもあり、背中しか見えない。顔が見えないから、気持ちがおかしいのかも知れない。顔を見たら、この不可思議な気持ちは薄れるかも知れない。
「お願い、こっちを見て。」
両手を広げ、訴えかけた。
願いが通じたのか、母親が何かを取ろうと振り向いた。
「あ・・・。」
落胆したような声をあげた。
「変わらない。」
そう。気持ちは何も変わらない。母親の笑顔を前にしても、奴の気持ちは何も変わらなくなっていた。
「いったい、どうしたんだ?」
頭を抱え、自問自答する。しかし、答えは出ないままだ。
「あぁ、したい。したい。したい。」
再び、叫び続けた。叫びはいつまでも続いた。明日、僕が彼女に逢うまで。
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