鏡の中の僕に、花束を・・・
19
トラブルを忘れさせるだけの、とびっきりの笑顔を彼女は僕に見せてくれた。待ち合わせの場所は、ドリームランドの入口だ。そこに彼女は先に来ていた。僕を見つけ、笑いかけてくれたのだ。
「遅いよ。」
一応、怒ったフリをした。小さく振り上げた拳が、なんとも言えずかわいい。
「ご、ごめんね。色々あってさ。」
「色々ってどんな?」
まさか痴漢に間違われたとも言えない。適当にごまかしておいた。
「それよりさ、早く行こうよ。」
僕は言った。
「そうだね、いつまでも、ここにいてもしょうがないもんね。」
入口にある門をくぐると、そこは別世界だった。

遊園地の見た目の華やかさや可愛らしさに騙されてはいけない。それを僕ははじめの乗り物で痛感した。世界は回る。上下が逆になり、いったい何が起きたのか理解出来ない。ただ、僕は叫んでいた。力の限り。
「う、う、うわわわわあああ。」
血管が切れる勢いで叫び続けた。よくわかっていなかったから、彼女に言われるがまま、ジェットコースターに乗ったのがいけなかった。
肩を押さえつけていたバーが上がる。もう、立ち上がってもいいのだ。が、足が小刻みに震え力が入らない。
「お客様、大丈夫ですか?」
見兼ねた係員が、僕の所にやって来た。彼女も横で心配そうに見ている。
「千代田くん、大丈夫?」
「あ、うん。」
そう答えてみたが、どうやっても足は動かない。係員に抱えられるように、僕はジェットコースターから出た。
係員の口元が、笑いを堪えるのに必死だとわかったのが、哀しくてやるせなくなった。
「ごめん・・・。」
出口の側にあったベンチに腰掛けさせられた僕は、俯いて謝るしかなかった。
「いいよ。気にしてないから。」
彼女はそう言ってくれているが、心の中では、さっきの係員と同じように思っているに違いない。卑屈になっている自分がいた。
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