鏡の中の僕に、花束を・・・
醜態。
この言葉が僕を埋め尽くした。便器を抱え、目に涙を湛え、僕は思った。
“もう、帰ろう。”
帰ってもどうにもならない事はわかっている。それでも、これ以上彼女とはいれない。いれるはずがない。
明日、仕事場で逢うだろう。けど、顔も見れないはずだ。
“仕事も辞めよう。”
完全に追い込まれた。いや、追い込んだのは僕自身かも知れない。
僕は涙を拭いてから、トイレを出た。

「あ、あのさ・・・。」
こう言うのには勢いが必要だ。だから、トイレを出てすぐに彼女に話しかけた。
「ねぇ、次はあれにしようよ。あれなら乗り物じゃないから大丈夫でしょ?」
彼女が指さしたのは、ミラーハウスだった。古典的なそれは、客に飽きられているのだろう、誰もいなかった。
「あ、そうじゃなくて・・・。」
僕も彼女の話を無視して、そのまま続けようとした。すると、彼女の掌が僕の口を塞いだ。
「いいよ、何も言わないで。何も言わなくていいから。」
彼女は僕の気持ちをわかっていたのだ。わかっていながら、それを拒否した。拒否されて、それを強硬するだけの気持ちを、僕は持ち合わせていない。ただ、謝り感謝の気持ちを言うしかなかった。
「ごめん・・・。ありがとう・・・。」
下唇を噛み締めた。
「謝る必要なんてないよ。私が、ただ千代田君と一緒にいたい、それだけだから。」
「うれしいよ。僕も、僕もずっと、ずっと一緒にいたいから。」
醜態なんて関係ない。素直に彼女の気持ちに甘え、本当の気持ちを吐露した。
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