雨に似ている
熱情
凛とした憂いも悲嘆も感じさせない、颯爽とした後ろ姿。




詩月は、ピアノに向き合い胸に手をあて、目を閉じた。



シャツのボタンを数個開け、祈るように手を合わせ深呼吸し、ゆっくりとピアノに指を構える。



周桜詩月のピアノ演奏。





店内は静まりかえったまま。




貢も郁子も理久も息を呑んだ。



鍵盤に触れる詩月の指が、透明で澄んだ音を奏でる。



雪のように儚い音も、一つ一つ煌めかせる。



肩先に落ちることなく消えてゆく、儚い雨音までも。

指先に神経を集中させ、微かな雫の一粒さえも逃さず、丁寧に掌で掬いあげるように。



繊細で計算された正確なピッチが、自然のままに刻まれていく。



紡ぎだされる音に周桜宗月の影はない。



澄み穢れなく優しく心地よく、清らかな音は哀しいほど優しい調べを讃え、奏でられる。




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