白銀の女神 紅の王
「主は俺だ」
間近で聞く男の声は低く冷たく響き、思わず体をビクッと震わせた。
「も、申し訳ございませんでした」
部下たちも男に睨まれ、震えあがっている様子だ。
「ウィルの命をまっとうしたいのならばそうすればいい。…ついて来られたらの話だがな」
ふっと皮肉を込めた笑いを残し、地上へ続く階段に足を掛ける男。
部下たちの中心人物であろう男が焦った様子で「そこの2名、シルバ様を護衛しろ」と命じているのを余所目に、どんどん離れていく賭博場を見つめる。
驚きと恐怖で縮こまっている客たち。
悔しそうな表情を浮かべるウォルター。
そして…何とも言えない表情でこちらを見つめるジェス。
こんな形でこの賭博場を出るとは思わなかった。
10年間一歩も出たことがなかったこの賭博場から、連れ出したのは見ず知らずの男。
私はどうなってしまうのだろうか………
これから待ち受ける未来に大きな不安を抱えながら賭博場を後にした。