白銀の女神 紅の王



天窓から射す月夜の光の下―――


銀世界に溶け込むようにして、彼女はいた。

ベッドの上に座り、ただ黙ってこちらを見つめている。

限界まで見開かれた銀色の瞳は潤み、涙を湛えていた。



夢と同じだ……




「エレ…ナ……」

酷く掠れた声で、名を呼べば、ビクッと肩を揺らすエレナ。

天窓から射す月光はエレナだけを照らし…

月光が二人を別つように、光と闇を分ける。

まるで、住む世界が違うのだと言われているかの様に……

月の光を浴び、神秘的な色に包まれるエレナ。



銀色の髪と瞳、そして白い肌と相まって、銀世界に溶け込んでしまうかのような感覚に陥る。

今にも消えてしまいそうな……

そんな感覚を覚えたことに、酷く焦燥感を駆り立てられた。



前にも一度、こんな事があったな…

誰からも汚されず、純粋無垢で、自分とは別世界で生きるエレナを前に触れてはいけないと感じた。



だが、今は違う……

パシッ―――――

月光が支配する世界に手を伸ばし、迷いなくエレナの手を取る。

もう、この手を離しはしない……


グイッ―――――

力を加えれば折れてしまいそうなほど細い腕を、力いっぱい引き寄せた。



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