ジキルハイド症候群



(―――本当はね、分かっているの)


蒼真の言葉には嘘がないって。
言葉通りに隣に居てくれると思う。


後は、全部あたし個人の問題なの。


「恵里」


名前を呼ばれ、腕の拘束が解かれたかと思えば、あたしの体は向きを変えさせられ、蒼真と向き合う形になる。


「恵里」

「……なに?」

「――――好きだ」


蒼真が近づいてくる。
唇に重なった柔らかいもの。触れた部分から全身に広がっていく感覚にあたしは身を委ねた。


充たされていく。
渇望していた心に、潤いの兆しがみえてきた。



このまま、時間なんて止まってしまえば良い。


そしたらあたしは、素直になれるのに。


――――『気・を・つ・け・て・ね』


頭の片隅で、警鐘が鳴り響いていた。


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