深く、高く。~観念世界2~
恐怖のせいだろうかそれは長く、長く、ゆっくりと私の前を逆さまに通り過ぎた。

その、スローモーションのように、私の鼻先ギリギリを頭の上から落ちてきたのは、私だった。

通り過ぎる私はしっかりと目を見開き、私をその網膜に捉える。
口を嘲るように歪ませ、何も言わない。
不揃いな八重歯が口の端から見える。

私たちはお互いに何もしなかった。
ただ、私は恐怖を持って、向こうは嘲笑を持ってお互いを迎え、そして別れた。

靴のつま先を見送り、また元の暗闇のみの世界に戻る。
まるで何もなかったみたいに。

それでも心臓の鼓動が痛いくらいに鼓膜を刺激しているのが、今体感したことを事実だと裏付ける。

「大丈夫だから」
ややして、声が聞こえた。

私の声だ。

ダイジョウブダカラ、と言った。

それは言葉ではなく今の出来事が幻ではなかったことを告げる音として私の脳に響いた。



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