深く、高く。~観念世界2~
「あなたの愛はどこに向いているの」

黙り込む私の前で、全ての感情が入り混じる。
そしてぷっくりと肥大化し、正面から私を見据えて指を差した。

「愛する事と愛してあげる事と、愛されたいと思う事」
幾つもの指があちらこちらを差す。
「ベクトルはどっちに?」

そうしてうにゃうにゃと伸び、感情は壁のように私を取り囲む。幾つもの口が私に向けられそれぞれに動く。

「好きなの?嫌いなの?愛なの?固執なの?」
「喜びなの?歓びなの?悦びなの?」
「自分なの?相手なの?奉仕なの?支配なの?」
「独占欲なの?物欲なの?色欲なの?自尊欲なの?」
「幸せなの?不幸なの?幸せにしたいの?不幸にしたいの?」
「幸せになりたいの?不幸になりたいの?傍にいたいの?傍にいて欲しいの?」
「壊したいの?作りたいの?失くしたいの?手に入れたいの?」

うにゃうにゃうにゃと全ての問いかけが私に鎖のように絡み、重くのしかかり、縛り。

そして、やがて。

もう気がすんだのか、感情はその体をまた小さい塊に戻すと、呆けたように開いた私の口の中にポンと飛び込んできた。

吐き気はおさまっていた。

私はその場に座り込む。足元には包丁が落ちている。
切れ味の良さそうな包丁の刃を何も考えずに見つめ、ようやく私はのろのろと包丁を拾い上げた。

包丁はご飯を作るものだ。
不倫相手を刺すものではない。
ましてや私を殺す道具ではない。

台所に包丁をしまい、冷たい水を飲んで。

コップに反射する光を見て、私は自分の感情に向き合う覚悟を決めた。
強い所も弱い所も、汚い所も、綺麗なところも。
全てはエゴだと認めて。

《おしまい》


< 26 / 26 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

秘岸花

総文字数/5,436

恋愛(その他)11ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
今からそう遠くない昔 それでも僕からしたらそれは異世界のような知らない場所 知らない場所でも恋心は共通の熱を持って語り部を静かに押し流していく 初の長編シリアス恋愛もの(になる予定)です! ボケるとまたコメディになるので全編真面目(の筈)です! 読みやすい改ページ、改行を心がけますが字数多めですいません
マリッジリング

総文字数/22,260

恋愛(その他)35ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
一見幸せそうな新婚夫婦、 好きになった人は結婚間近、 知られてはいけない甘くて不道徳な恋。 そんな薬指にはめられた錠を意識しながら繰り広げられる大人甘酸っぱっぽい(←声に出すと言いづらい)恋愛を短編にしたものです。 お気に召すものがあれば。 ☆上野山雅也様、さいマサ様、梅雨之あめ様、Nanoha様、素敵なレビューをありがとうございました☆
倦む日々を、愛で。

総文字数/4,773

実用・エッセイ(その他)7ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
変わりばえなく過ぎてゆく毎日は 必ず何かがあるわけじゃなく、 殆どはただ淡々と繰り返されてゆくだけ。 でも、一つでもなければ一日足りない。 それは困らないけど、なんか嫌だ、みたいな。 そんな何気ない1日をメモするような短編集。 ※カテゴリがエッセイになってますがエッセイというよりは日常に目を向けた短編という感じです。悪しからず。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop