あひるの仔に天使の羽根を

・賢愚 桜Side

 桜Side
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馬鹿はやはり馬鹿にしか過ぎない。


蜜柑色は、身をもってそれを証明している。


あれだけ。


何度も。


――煌、"無知の森(アグノイア)"だけは近づくなよ?


――"約束の地(カナン)"の全貌が見えない今、迂闊なことに首突っ込むなよ?


――此処には、緋狭さんの命で来ていること忘れるなよ?


そう、玲様が根気強く念を押されたというのに、


――おう。


やはり何も聞いていなかった。


砂の地面にくっきりと残る、大きな足跡。


完全に森に向かっている。


私はテディベアを抱きながら、草臭い鬱蒼とした森に足を踏み入れた。


明らかに――


何かがありそうな、胡散臭い場所。


生い茂る、異常発育したような大きな葉が、不気味さを煽る。


ぬかるんだ地面。


怯む私ではないけれど、最大の警戒心を持って、煌の足跡を追う。


静寂を破り、煌を呼ぶ声を出すことは躊躇われた。


馬鹿蜜柑は、更に奥地へと進んでいる。




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