あひるの仔に天使の羽根を


「邪痕を消せ!!!」


「あら、玲さん。言葉遣いが荒いわね。愛する"彼女"が心配?

残念だけど、私が作った邪痕でもあるまいし、元々そんなものを消す方法なんて私は知らないわ。私が出来るのは、邪痕主を嬲ることだけ。

まあ怖い目、本当のことなのに。ふふふ、美しい玲さんに免じて、慈悲くらい差し上げましょうか。

鐘が鳴るまでは手を出さないで上げる。鐘が鳴ったら儀式を始めるわ」


「拒否したら?」


櫂様の問いに、須臾は艶然と笑う。


「知れたこと。芹霞さん…死ぬわよ?」


ぎり。


歯軋りの音は誰のものか。


「邪痕は自然発生する罪の烙印。私はそれを消すことは出来ないけれど、断罪を執行するかどうかの裁量はある。それは、金緑石使いに赦された特権。芹霞さんの命は、私次第」


「お前が"断罪の執行人"か!?」


思わず叫んだ私に、須臾は嗤いながら首を横に振って否定する。


「いいえ、私は違うわ」


そして須臾は高らかに言った。


「うふふふふ。闇の力が満ちてきたわね」


促されたのは、樒。


「!!!」


目の前で…樒の顔の皺に…張りが…若さが戻っていく。


時が戻っていくかのように。


「成程ね。儀式は…"巻き戻す"効果があるのか」


射竦めるような怜悧な瞳に、須臾はたじろぐこともなく。


「タイムリミットは鐘が鳴るまでよ」


それは――


「それでは櫂、また後程。ごきげんよう」


まるで…アダムとイブに選択を突きつける邪なる蛇の様な、どこまでも悪意に満ちた告知だった。


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