あひるの仔に天使の羽根を
 

――レグの日記の断片があったはずだ。天使の…エノク語で書かれた。


緋狭さんの言葉が蘇る。


「なあ原本はあるか?」


するとまた遠坂はイクミに指示して、1枚の黄ばんだ紙を持たせた。


人間には未知なる言語で書かれたというメモの断片。


緋狭さんが"エノク語"と呼んだそれは、魔術書には馴染みの言語なのだと、昔聞いた覚えがある。


天使の言語など…その真偽性すら俺には確かめる術はないが、ふと……思う。


旭が天使であったのなら、これを読めたのではなかったろうか。


読めないということは、彼にそこまでの学習力がなかったのか、或いは言語が違うのか、それとも旭という存在が天使ではなかったからか。


魔術師という…歴史の影にひっそりと息づく神秘主義者が、その知識や力を如何なく発揮できる領域をどの程度のものとするかは、俺には推し量るしかないけれど、少なくともその関連者しか読めぬ言語を解読の鍵として用いたということは、判る誰かに向けられたものではないかという気がしてくる。


関連者でなくとも、人間の知識量を超えた存在なら、解読は可能なのだ。


だからこそ。玲と遠坂が機械を用いた方法は、有効だったのだから。


「………」


俺の目線は紙の上から下に向けられて。


奇妙な…植物のような簡易図に止まった。



どうして…植物が関係ある?


薬草か?


それとも――

だけどこの形……


「あ、師匠だ。最初の一文…"玉"と"大木"、生命の樹と関係があるんじゃないかって」


ほぼ同時に思いつくのは、血の成せる業なのだろうか。


「俺も思い至った。玉は10個のセフィラ…穿って大木のように成り立つ生命の樹は、縦に見ていけば、3つの柱で表現される。左が峻厳、真ん中のが均衡、右が慈悲だ」
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