あひるの仔に天使の羽根を

「まあ始めは別人だったんだろうさ。だけど僕達が各務の家にイクミを連れ…そしてイクミを寝かして僕達が別室で話し込んでいる間にでも、お前は細工をしたんだろ? このままだとレグが荏原だとばれてしまうから。姿を変えていたとしても、イクミの耳はいいみたいだからね。

イクミは、僕達の状況把握のいい監視役になるし。

各務家同様"生かされて"いたイクミは、やはり膨大する生命の樹の力に揺らいでしまった。そこで目につけたのは、紫堂の力を弾ける蓮。恐らく、蓮も僕達側の…此の地には異質な存在なんだろう? だから術に嵌ってしまった。蓮も僕達も」


どのタイミングから、蓮の"イクミ"だったかは判らないけれど、別々な人間を同一と認識していた僕達。


だとすれば。


継ぎ接ぎの現実を繋ぎ合わせられる、きっとそれが白皇の持つ力…幻術なんだと思う。


だからこそ、この"約束の地(カナン)"は成り立つんだ。


「成程成程。玲様に対する恐怖と…それから恐らく。別の術が同時にかけられていましたな。貴方達に牙を剥く場合に発動するようにと。そこまで守りたかったと言うことですか。私としたことが、見抜けなかったとは。はははは」


白皇が愉快そうに振り向いた先は久遠。


ちらりと窺い見る久遠は、いつも通りの虚無の表情で。


それに過剰過ぎる程の憂慮の情を見せる芹霞。


その姿を視界に入れた僕の心臓は、再び大きく叫んだ。


僕を見てくれ、と。


僕の心臓は、僕と芹霞の未来を危惧している。


始まってもない僕達の絆など…無に等しいものだと、嘲笑うかのようなこの痛みは、まるで母の虐待を恐れた昔のような、切羽詰まった感覚で。


嫉妬を通り越した恐怖に――



「芹霞……」


僕は手を伸ばすしか出来なくて。


それは救いを求める罪人の如く。


芹霞の慈悲を乞うたんだ。


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