あひるの仔に天使の羽根を
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「これはこれは。豪快な破壊の様でしたな。此の塔より、じっくりと拝見させて頂きました」
部屋に入るなり、腕を組んだ執事服の荏原…白皇が出迎えた。
神楽も装飾もない…ただの広い畳だけが広がって。
桜に裂かれた襖の残骸は全て取り除かれ、艶かしい血色の壁が空間の気を澱ませる。
和とも洋とも言えぬ奇妙な部屋に漂うのは、まるで始めからそうであったかのような不気味なまでの静謐さ。
先程の光景は、偽装(フェイク)だったのか。
誰も居ないはずの部屋から、身を隠す場所がないはずの空間から、時折感じる幾つもの視線。
その不可思議さに思いを巡らすよりも、本能的に警戒に身構えたのは玲も同じで、鳶色の瞳には研ぎ澄まされた刃のような鋭い光が湛えられ、いつでも芹霞を庇える位置に立っている。
遠坂は――
階段の途中で待機していた榊が引き取った。
その…妙に堅い顔つきから、これから何が行われるのか…ある程度予想はついているのだろう。
遠坂は最後まで反抗していたが、榊の口から出た紅皇の名前に過剰反応すると…芹霞の耳に何かを囁いてから俺を見た。
――ねえ、紫堂。"醜いあひるの子"って…"何"が醜かったんだろう?
そして玲に向いて。
――きっと…母親の影に怯えているのは、師匠だけじゃないよ?
あの場では不似合いの謎の言葉を残して。